空手道を知っている方は多いと思うが、空手道は他の武道に比べて流派があまりにも多く乱立している。
「空手は日本のみならず世界的にも有名な武道であるのに、なぜ普及しないのか?なぜスポンサーが少なく、テレビでも放映されないのか?」という疑問をよく聞く。
また、これから空手を始める・空手に興味がある方にも、流派の違いを知れば、空手に対して今までと違った見方ができる。
この記事では、乱立している空手道の流派の種類を紹介し、それぞれのルールの違いを述べていく。
流派の違いを知ることで、2020年の東京オリンピックに採用された空手が、氷山の一角ということが分かる。また、これから空手を始める方にとって、どの道場を選べばよいかの基準も明確になってくる。
空手道といえば、大きく分けて以下の通りである。
⒈伝統派空手
・寸止め空手
・沖縄空手
⒉フルコンタクト空手
・極真空手
・総合空手
・POINT&KOルール空手
3,防具付き空手
・伝統的防具付き空手
・硬式空手
ひとえに空手道といっても、これだけの種類があるのだ。しかも、流派内では連盟などの団体や道場が同じ競技ルールを採用しているとは限らない。同じ流派でも空手に対する考え方や競技ルールが、連盟ごとに異なっていることもある。
2020年の東京オリンピックで正式種目となった空手道は、寸止め空手のことを指す。日本国内の高等学校での部活での空手道部も、この寸止め空手を採用しているのだ。
それでは、流派を一つずつ説明していく。
伝統空手
沖縄空手、全日本空手道連盟(全空連 ※以下同様)が中心となっている空手道がこれに該当する。
※「伝統空手」は、狭義には「寸止め」ルールを採用する全空連の空手を指す場合が多い。
伝統空手に該当する3つの流派・団体を挙げていく。
沖縄空手
文字通り、沖縄での古くからの伝統的な教えに沿った流派である。スポーツ化していく日本本土の空手道に対して一線を画し、先人たちが継承してきた「型」の稽古や鍛錬法を重視している。組手の練習では、当身のみならず掴みや投げも採用している。
また、多くの沖縄空手の道場では、棒術やサイ、ヌンチャクなどの武器の修行も行われている。
このように、単なる徒手格闘ではなく、総合的な武術の側面をもつ。
そのため、沖縄空手には公式の試合競技がない。現在も、沖縄空手の多くは、独自の型や鍛錬法などを忠実に守り継承している。
沖縄空手が一つの独立した流派として際立った背景には、全空連への反発だ。
日本国内の伝統空手の中心的連盟である全空連が、指定形から沖縄の形を排除したことで、沖縄空手の団体は日本本土(特に全空連)と距離を置くようになった。
※ただし、沖縄県空手道連盟は全空連に加盟。
主な流派は、琉球王国時代に首里城で発展した「首里手」、那覇で受け継がれた「那覇手」、泊で栄えた「泊手」、「上地流」が中心。
三大流派の位置づけは、小林流、剛柔流、上地流とされている。
他には、糸東流、沖縄拳法、少林流、少林寺流、松林流、本部御殿手、沖縄剛柔流、沖縄松源流、劉衛流、金硬流などがある。
沖縄空手だけでこんなにも流派があるのは、読者も驚きであろう。
実は、沖縄空手は日本本土より世界60ヶ国余に多くの支部道場を持っていて国際的な広がりがある。近年では、沖縄県も空手道の発祥地としての国際的な宣伝に注力している。
先人たちから伝承された技や稽古方法が現在でも実践されている沖縄空手は、
「生涯に一度は空手発祥の地である沖縄で修行してみたい」と、沖縄の道場や連盟を訪れる空手家が後を絶たない実情もある。
沖縄空手は、1997年沖縄県の無形文化財に認定された。
寸止め空手
現在日本で最も繁栄している流派である。この流派の道場は、全空連に加盟して空手道の競技化、スポーツ化を重要視している。全空連が寸止めルールを採用していることから、寸止め空手と呼ばれることが多く、競技空手、スポーツ空手とも呼ばれる。
競技ルールは、文字通り寸止めであり、直接打撃は反則となる。
※ただし、実際はライトコンタクトが暗黙のルールとなっている。空手を知らない人かすれば、非常に不可解とも思われている。ポイントとする技の打撃具合の判定が難しく、素人が見るとわかりづらいところがある。
主な流派は、剛柔流、松濤館流、和道流、糸東流があり、一般に四大流派と呼ばれている。
まず、四大流派を説明していく。
松濤館流
近代空手道の創始者として知られる船越義珍が始祖であり、80年以上の歴史がある流派。
松濤館流は全世界に広がり、寸止め空手の流派の中では世界で一番多く学ばれている。
剛柔流
中国南派少林拳の影響によって確立した。開祖は宮城長順。
和道流
大塚博紀(明治25年6月1日生―昭和57年1月29日歿)によって昭和9年に創始された。空手道に神道揚心流や為我流の柔術、新陰流を初めとする剣術の体捌きなどを大成させた流派。
糸東流
摩文仁賢和によって開かれた流派。沖縄空手の首里手と那覇手に加え、琉球古武術や柔術である神伝不動流を融合させたもの。
基本鍛錬として巻藁に突き・蹴りを当てる鍛錬や、砂利の上で正拳腕立て伏せを行うなどの、実践的な肉体鍛錬に重きを置いている。
以上が四大流派と呼ばれている。
神道自然流
小西康裕によって編み出された流派。四大流派ではない。
小西は船越義珍に師事して唐手を学び、植芝盛平より合気道を、藤田西湖からは南蛮殺到流拳法を学んだ。そして、揚心古流、柴真楊流、不遷流、柳生心眼流といったさまざまな柔術を学び、それまで学んできた流派を一つの流派に集合化して新たに築いた流派となる。
日本本土空手道は、全日本学生空手道連盟(通称:大学空手)を中心に発展してきた。そのため、若者向けに型や組手は沖縄空手よりもパワフルで見栄えがよくなるように変化してきている。
勝負の判定は、先述の通りポイント制で、拳サポーターを付ける。
試合の様子がテコンドーとそれほど変わらず、すでにテコンドーがオリンピック種目となっていため、空手のオリンピック種目化の実現は容易ではないと考えられていた。
寸止め空手が空手道の中で主流となった理由の一つとして、本格的な防具の購入費用もかからず、フルコンタクトのように怪我のリスクも少ないというメリットが挙げられる。
ただし、寸止め空手の選手は試合中誤って打撃が口に当たることがよくあり、歯がなくなっている選手もよく見受けられる。
2016年8月3日(日本時間4日)、リオデジャネイロで開かれた国際オリンピック委員会総会で、2020年東京オリンピックの追加種目の一つとして正式に承認された。
フルコンタクト空手
寸止め空手とは異なり、直接打撃をルールとした団体・会派。そのルールの内容から、“実戦空手”ともいわれる。極真空手が有名であるが、フルコンタクト空手の流派は、極真空手・アメリカ式フルコンタクト空手・総合空手と複数ある。
実は、空手道の直接打撃制ルール自体は寸止めルールよりも歴史は古い。
極真空手が代表的である狭義のフルコンタクト空手
極真会館などに代表される「手技による顔面攻撃以外」の直接打撃制ルールを採用した流派。寸止め空手と違い、直接相手に攻撃を当てる。ノックアウト制の競技ルールを採用。
極真空手の中にも複数の会派がある。
主な会派は、
- 極真館(創始者:盧山初雄。元々は極真会館の最高顧問)
- 新極真会(メディアでの露出が極真空手の中で最も多い)
- 極真会館(創始者:大山倍達。漫画『空手バカ一代』は、大山の伝記がストーリーのモデル)
- 正道会館(石井和義が創始した。K-1に出場する極真空手出身の選手は当会派が出身)
がある。
アメリカ式フルコンタクト空手
アメリカ式の極真空手と言われている。道着を着用せずに上半身裸で行い、キックボクシングに近い競技ルールを設けている。
総合空手
突きや蹴りのみならず、投げ・掴み・組技・寝技なども取り入れられていて、総合格闘技のような競技ルールを採用している。防具は一切着用せず、極真空手では禁止されている「顔面への手技」も認められている。
主な会派は、真武館・極真会館分派の大道塾・大道塾の分派である和術慧舟會、空手道禅道会である。
防具付き空手
防具付き空手は、防具を付けてフルコンタクトで攻撃を当てる競技ルールを採用している。空手道の競技ルールとしては、寸止め空手やフルコンタクト空手よりも歴史が古く、空手道の最初の全国大会(全国空手道選手権大会)も防具付き空手での競技であった。
特に、防具付き空手は会派が多く、会派ごとに微妙にルールが異なる。大きく分けると、防具付き空手の競技ルールは主に、「伝統的防具付き空手」「硬式空手」に分けられる。
伝統的防具付き空手
ストロングマンという鉄製の防具を面と胴に付け、フルコンタクトで技を当てる競技。ストロングマンは、全日本空手道連盟錬武会が開発した強固な防具。
組手ルールは、突き、蹴り、打ちともに「技あり」が二つ極まって一本勝ちとなる。技ありと認められる当たりの強さは、全防具付き空手道の競技の中で一番厳しい。かなりの強い打撃が求められる上、技の後は「引き」を重視される。たとえ十分な強さで技が当たっても、引きがなければ技ありとならない。
「一撃必殺」を目標とするような印象が強い。
硬式空手
スーパーセーフという防具を面と胴に装着し、手技・足技・打ち技が正確に当たれば積極的にポイントを取る流派。また、技が決まっても、審判の「止め」がかかるまでに時間をとり、その間に決まった連続技も加算される加点方式を採用している。
先述の伝統的防具付き空手と比較すると、硬式空手は「多撃必殺」の特徴があり、あまりにも弱い打撃でなければ、積極的に加点される。
硬式空手の主な団体は千葉派と久高派に分かれる。
千葉派のルールでは、拳にもKサポーターという安全具をつけ、上段蹴り2ポイント・その他の技は1ポイントで、5ポイントの差が付けば勝ちとなる。試合時間は3分。
久高派のルールでは、胴と面のみスーパーセーフをつけ、手足に安全具をつけることは禁止されている。これは、空手道の本来の「素手素足で相手に技を極める」という原理に基づいたルールである。
千葉派と同じく、久高派の試合時間は3分。ただし、ポイント差による勝敗の決着はなく、ノックアウトか3分の試合でポイントが多かった方が勝ちとなる。
空手道最強の流派は?
「最強の空手は極真空手だ!」という声を耳にすることがある。しかし、断言はできないはずだ。
なぜなら、極真空手は「手技による顔面への打撃」は禁止されているからだ。人間の本能としては、顔面に手技で攻撃を加えることは最も自然なことだと考えられる。一番手軽に、モーションも小さく技を繰り出せるからだ。
そのため、極真空手の選手のほとんどは、顔面へのガードがルールに慣れていく過程の中で希薄になりがちになりやすい。
誤解してはならないのが、極真空手がダメだとは言っていない。極真空手は防具もつけずに相手に打撃を当てるのだから、選手はものすごい精神力である。ルールの特質上、必ず試合でケガをすることになるのだから。
寸止め空手は、間合いの取り方があらゆる武術の中でもダントツで優れている。スピードも速く、先手が相手に当たる確率は他の武術と比較しても高いだろう。
そして、防具付き空手もさまざまな技を磨くことができる。頑丈な防具を装着するので、ケガの心配なく思い切って色んな技を繰り出せるのだ。
また、相手は胴だけでなく、顔面にもフルコンタクトで当てるので、捌きの技術も優れている。加点方式でもあるので、空手の中でもかなり実戦的な流派という見方もできる。
「どっちの方の流派が強いか」と比較しても不毛な話だ。大切なのは、自分がどのような空手が好きで、継続して練習を重ねられそうかを調べて見極めることだと思われる。
オススメの流派
オススメというのは当然好みの話になるので、筆者の見解を述べる。
筆者は硬式空手をオススメしたい。
理由は、組手のルールが「ポイント獲得を目標とした安全性の高いK-1ルール」ともいえるからだ。
この意味は、色んな格闘技の選手も参加できる余地があり、スーパーセーフを装着して胴・面であればどんな打撃技でも有効で加点方式を採用していることである。
安全な上に加点方式であるため、たとえ背が低くリーチが短くても勝機は十分にあるのだ。
空手道の競技人口
世界の空手道人口は、世界空手連盟のデータでは世界でおよそ6000万人。実は、柔道や剣道などの他の武道よりも、空手人口は多い!
【柔道と剣道の世界競技人口】
- 柔道:数百万人
- 剣道:250万人
ちなみに野球は、なんと3500万人!野球よりも空手道人口の方が多いのだ!
(各競技団体及び日本生産性本部のレジャー白書2014に基づく)
では、空手道人口がこれだけ多いのに、なぜ空手道はそこまで普及せず、スポンサーなども少ないのか。
それは、また別の機会で取り上げてみたい。
ここでは、一言で、ビジネスになりづらいと記しておく。
まとめ
柔道や剣道は、競技ルールが統一されているので、武道をやらない人でも試合のイメージがしやすいと思う。
しかし、「空手の試合はどんなイメージ?」と武道に携わっていない人に聴くと…
「瓦割りの枚数を競う」
「相手が倒れるまでやる」
「形のかっこよさを競う」
「防具をつけて当てる」
など様々なイメージが挙がってくる。
これも空手道のルールが統一されていないことの産物であろう。
これでは、武道をやらない人には空手のルールが不可解のはず。空手道のそれぞれの団体ごとにルールが違うので。
「空手道ってこんなにたくさんルールがあって、それぞれ内容が違うのか」と思われても無理はない。
筆者は、流派はたくさんあって良いと思う。それぞれの流派の良さがあるわけで、それぞれの良いところを学べば良いと思う。色んな師範・先生の教えがあって良いのだ。
ただ、ルールはせめて流派ごとできちんと統一されるべきだ。極真空手・硬式空手・寸止め空手…それぞれの流派ごとで、主軸となる公式ルールを確立する必要があると考える。
流派内でもルールの乱立が黙認されれば、それぞれの大会主催団体の都合の良いようにルールは作られず、流派は成長できない。
ルールが統一されていれば、それぞれの団体が切磋琢磨して競争心も芽生える。
「流派」は認め合いつつ、「ルール」は一つに。
戦前から伝わってきた空手道の組手のルールを、
もういい加減…流派ごとに主軸となり指針となる公式ルールを確立するべきではないのだろうか。
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